今月の Software Design : 2013/03 (その6)

 「今月の Software Design 」の3月号の投稿の最終回です。

 「レッドハット恵比寿通信」以降に掲載されている9記事について要約と感想をまとめました。

 フォーマットは各記事、以下の通りです。

 

・記事のタイトル
( 1 行目 ) 記事の要約
( 2 行目以降 ) 感想

 

・レッドハット恵比寿通信

 Red Hat が提供するエンタープライズ向けミドルウェア JBoss についての紹介記事になります。JBoss とは一体何で、どんなプロジェクトから構成されているのかという内容になります。

 JBoss については、恥ずかしながら名前だけ知っているという程度の知識しか無かったので、JBoss について知る良いきっかけになりました。それにしても Java の世界は広いです。

 記事を読む限りでは IBM WebSphere が競合になるのでしょうか。IBM WebSphere と言えば、えげつない資格ビシネスをしているという事で印象的ですが、調べてみると Red Hat も同じ事をやってるんですね。Red Hat によって JBoss は「安心」を売り物にした飯の種になりますが、JBoss が使われる事で、これを飯の種とするエンジニアが安心を担保するものとして資格を欲しがり、JBoss 環境が更に盤石となるという連鎖が期待できます。こうして、エンジニアとコミュニティ(Red Hat)においてとても血なまぐさいエコシステムが形成されるわけですね。さすがエンタープライズ向け商品は金になるだけあります(実にえげつないです)。

 

・システムで必要な事はすべて UNIX から学んだ

  仮想化やらセキュリティやらで生のマシンをいじって遊ぶ機会が減ってしまった現状において、エンジニアがちょこっといじって遊べるおもちゃとして注目されているいくつかの組み込みボートについて紹介しています。具体的には SAKURA ボード、RetroBSD、そして Raspberry Pi を紹介しています。また、Raspberry Pi で FreeBSD を動作させることについて、さらにちょこっと解説しています。

 ここでも Raspberry Pi です。そして BSD です。

 また、かつてルネサンスが提供している H8 プロセッサのマイコンボード H8/3069F で遊んでいた事がありましたが、それと比較すると Raspberry Pi の環境の整いっぷりには驚嘆します。おまけに Linux が動くとか、もう楽しみでしょうがないです(確か H8/3069 では、シグマ・・・じゃなくて TRON を入れていた記憶があります)。

 

Linux カーネル観光ガイド

 Linux 3.8 に組み込まれた機能の紹介をしています。具体的には Hugepage を効率的に利用するための機構 (huge zero page) と、ext4 におけるスパースファイル (sparse file) の対応、そして UEFI 対応についての話になります。

 凄い記事です。まず、LKML は日々膨大な情報がやり取りされていますが、こうした次期バージョンについてのやり取りをキチンと追えているというとこに著者の実力を感じます。またカーネルの新機能なんてものは、往々にしてユーザからみれば枝葉末節なモノに見えると思うのですが、キチンと背景から完結で分かりやすく(それでいて曖昧じゃない)解説をしており、ソレが一体何で何故必要なのかがちゃんと伝わってきます。

 また UEFI の件で ELF の .signature セッションを使って署名するという話が出てきた際には胸が熱くなりました。いい加減(5年くらい止まっていますが)Onix の ELF 対応を済ませてしまいたいです。

 

・Monthly News from jus

 昨年 11 月に開催された Internet Week 2012 (以下、IW2012) のレポートです。記事では IW2012 で開催されたイベントのうち 「OpenFlow チュートリアル&ハンズオン」と「IP Meeting 2012」についてを取り上げています。

 IP Meeting は行けませんでしたが、前日に開催された「OpenFlow チュートリアル&ハンズオン」には参加し、この場に居ました(それも運営側で)。先々月の同記事の Internet Conference 2012 の時 といい奇妙な偶然です。

 IW 2012 の3日目に開催された「OpenFlow チュートリアル&ハンズオン」は、63人収容のそこそこな規模のセミナールームで開催されましたが、着席率100%のギチギチな状態でした。そして脅威のおっsシニア率。後日、参加者の感想を含む所属と年齢分布を何かの形で見せてもらいましたが、圧倒的に 3,40 代が占めていたと記憶しています。世のおっさんがこれほど興味を持つからこそ、これほど話題になるのでしょうか(あるいはその逆か)。

 

Ubuntu Monthly Report

 先月リリースされた LibreOffice 4.0 の新機能についての紹介記事になります。Writer (ワープロソフト) で Logo 言語が利用できるようになった他、Calc (表計算ソフト) で導入された新しい関数についてなどの機能に加え、他のツールとの互換機能の強化についていくつか紹介をしています。

 恥ずかしながら LibreOffice の存在自体をここで初めて知りました。2010 年に OpenOffice からフォークしたんですね。こうしたオフィス環境が多様化するのはいいことに思えます。プロジェクト側にしてみれば、互換に費やすコストが増えてしまいますが、ユーザ視点から見るといろんなソフトの良い部分が見えて、また開発側がそれを意識するようになるという競争原理が働きます。彼らが頑張ってくれることで MS Office がスタンダードだという風潮をぶち壊してくれればと願って止まないです。

 こうした流れからか、最近某社の社内で利用するドキュメントの一部が Google Docs を使っていることに驚きました。Google Docs もフリーソフトでも無ければ、オープンソースでもありませんが、マルチプラットフォームで且つ無料で使えるだけ MS Office よりかはナンボかマシでしょう。

 

・Software Designer

 最終回の今回は、これまでの連載で取材をした人たちの印象深い内容をワンセンテンスで振り返る内容になっています。

 この連載は、この連載のライターをやっている Bart Eisenberg さんがかつて、色んなソフトウェア技術やソフトウェアプロジェクトについて記事にする、いわゆるフツーな内容の連載をしていたものを、敢えて人物に焦点を移して改めて開始した企画だったという事を今回初めて知りました。

 この記事をキチンと読みはじめたのは、毎月 SD を読破するというこの活動をはじめた1月からで、この2ヶ月の間漫然と読んでいましたが、そんな面白いコンセプトの連載だったなんて露とも知らず最終回を迎えてしまいました(実にもったいない)。

 

・Hack For Japan

 気象庁が公表しているオープンデータをごにょごにょするハッカソンやったよ、という記事です。記事ではハッカソンの様子や、どんなモノを作ったについて簡単に紹介しています。

 記事で紹介されている、首相官邸が推進している電子行政オープンデータ戦略なる存在を初めて知りました。非常に面白い活動だと思います。

 そう言えば大学の友人が農業環境技術研究所が公表している全国の土壌データを使って、自分の今居る土壌情報を取得して遊ぶアプリ を作って、それを学会のお偉方に見せて褒められた(アワード取った)なんて事を思い出しました。

 個人的には、国税庁のデータが欲しいです。国税庁は各企業が申告した所得税の統計情報を公開していますが、個別の企業の情報は出て来ません。恐らく法律的な壁があるんだと思いますが、すごく知りたいです。それがわかれば、会社がどれだけ流動的で、またどれだけブラックかといった事が一撃で白日の元に曝け出すことができます。またそうしたミクロ的な点だけでなく、マクロ的にどのように人材が流れ、どういった業態が膨れて(また萎んで)いるかが時系列でわかります。恐らく銀行や信金なんかの金融屋さんなんかがそれに近い情報を握っていると思われますが、やはり個人情報的な理由で教えてくれません(いっそ銀行に入行しようか)。

 

・温故知新 IT むかしばなし

 コンピュータ科学、とりわけソフトウェアに関する古典書についての紹介をしています。古典としては、ニクラウス・ヴィルト著の「アルゴリズム+データ構造=プログラム」と「プログラミングの心理学」を紹介しています。また最後に、著者イチオシの書籍として「Code Complete」を紹介しています。

 古典全然読んでいません。最後に読んだ古典は「ピープルウエア」ですが相当昔です。今読んでいる本を読み終えたら、次は古典に手を出したいと思います。

 

・Inside View

 サイバーエージェントのインフラ運用に関するお話です。ポイントとしては、トラブルを誘発させる自前の KVS データベースを RDBMS に変えて、ストレージを SSC にすることで安定性を担保しつつスループットを出すようにしたという話と、従来手動で行なっていた MySQL のマスター/スレーブ切り替えを MySQL-MHA を使って自動化させたというお話、そして信頼性向上のために自作サーバをベンダーサーバに切り替えたという3つです。

 これまでやってきた独自の手法では安定しないし、信頼性が担保できないので、ソフトウェアは OSS を使い、ハードウェアはベンダーに任せるという敗北宣言とも取れる内容の記事です。またフォールバックして採った戦術もフツーといった印象です(SSC の件は先月の SD の後ろの方でも見ましたね)。

 この記事から読み取れる教訓としては「オレオレ手法はスケールしないよ」という事でしょうか。サイバーエージェント程の企業にまともな(むしろ普通以上のクォリティの)エンジニアが居ないわけが無いでしょうが、それでもオレオレ手法では破綻をきたすという事は、並の会社では余計に荷が勝ちすぎるのかもしれません。